漫才「武士3」
二人:はいどうもー!オフ・コースです、よろしくお願いします。
藤井:早速ですが、俺ね昔の武士が好きなんですよ。
大賀:その言葉…本気か?
藤井:何で疑うんだよ!ただ好きだって言ってるだけだろ!
大賀:あぁ、ごめんごめん。「武士に二言はない」んだもんね。
藤井:なんで俺を武士だと思った!?間違える要素1つもないだろ!
大賀:で、武士の中で特に好きな人とかいるの?あ、もちろん「自分」はなしでね。
藤井:だから俺は武士じゃないって言ってるだろ!
まぁ一番好きなのは「織田信長」かな。
大賀:その言葉…鈍器か?
藤井:鈍器関係ねぇよ!疑うならせめて「本気か」って言えよ!
大賀:でもさぁ、信長ってなんか野蛮なイメージがあるよね。
藤井:まぁ信長の恐ろしさを象徴する「泣かぬなら」で始まる俳句が残っているくらいだしね。
大賀:あぁ、あったね。「泣かぬなら 困ってしまって ワンワンワン」
藤井:違うわ!何で犬のおまわりさんみたいになってるんだよ!しかも泣かなくて困るってどんな状況だ!
ほら、もっと怖さを強調する言葉が入ってたでしょ。
大賀:ああ。「泣かぬなら ヤキニクテンプラ スシフジヤマ」
藤井:なんでカタコトの日本語なんだよ!しかも怖い言葉1つも入ってないし!
真ん中にはストレートに「殺してしまえ」が入ってただろ?
大賀:「泣かぬなら 殺してしまえ え?誰を?」
藤井:なんで俳句が会話調なんだよ!最後は「ホトトギス」だろ!これくらいは知っててくれよ!
大賀:でも俺信長ついては詳しいぜ。信長と言えば本能寺の変とか、楽市・楽座とか…。
藤井:なんだ、知ってることもあるんだ…
大賀:あとは、野球好きだとかかな。
藤井:待て待て!信長の時代に野球なんてないだろ!
大賀:でもさ、武士が野球で決闘してたら面白いと思わないか?
藤井:確かにちょっと面白そうだけど…。
大賀:『…謙信!今日こそお前からホームランを打ってやる!』
藤井:勝手に始めちゃったし。
大賀:『ふっ、信長ごときに打てるわけがなかろうが。』
藤井:決闘の相手は上杉謙信か。
大賀:『よし、謙信!まずはルールを教えてくれ!』
藤井:ルール知らないのかよ!最初の会話からして、知ってるものだと思うだろ!
大賀:『なになに、「ぼうる」というものを打って飛ばせばいいのか。』
藤井:素直に「ボール」って言えよ!「ルール」とか「ホームラン」とかはスムーズに言えてただろ!
大賀:『で、それを打つものは…あ、こんなところに長い棒があるぞ。』
藤井:「バット」は、もはや長い棒呼ばわりか!
大賀:『長い棒があるということは…そ、そうか!手で打つんだな!』
藤井:んなわけないだろ!何が「そ、そうか!」だよ!バットがあるんだからバットを活用しろよ!
大賀:バット、バッター、バッテスト?
藤井:英語の活用形のことじゃねぇよ!バットを利用しろってことだよ!
大賀:『よし、これで大まかなルールは分かったぞ。』
藤井:今ので分かったと言えるその自信はどこから来るんだよ。
大賀:『じゃあ、早速試合開始だ!』
藤井:あぁ、もうどうなっても知らんからね。
大賀:『…さぁ、始まりました。信長VS謙信の1戦。』
藤井:急にプロ野球中継みたいになったし!ってこれ誰が実況してるんだ?
大賀:『解説は小野妹子氏。実況はワタクシ、西郷隆盛でお送りします。』
藤井:世界観無茶苦茶だな!こいつら同じ時代に生きてちゃ駄目だろ!
大賀:『なお、今日は特別ルールと致しまして、マウンドが尾張の国、バッターボックスが越後の国でお送りしています。』
藤井:曖昧すぎるわ!なんで範囲が昔の国単位なんだよ!大体マウンドからバッターボックスまでどれくらいあるんだよ!
大賀:『百里です。』
藤井:遠すぎるわ!百里って約400kmだぞ!東京から大阪辺りまで行けちゃうよ!?
大賀:『…さぁ、早速謙信第1球投げました!』
藤井:俺の言葉は完全にスルーかよ!まぁ百里なんて届くわけが…
大賀:『…ストライク!』
藤井:百里の距離投げられちゃったよ!しかもストライクゾーンに入っちゃったよ!人類の歴史覆しちゃったよ!
大賀:『いやぁアウトローに決まる良いぼうるでしたねぇ。』
藤井:やっぱり「ぼうる」だけ浮いてるな!何でこの世界のやつらは「ボール」だけ言えないんだ!
大賀:『続いて第2球投げました!おおっと腕に当たりました!デッドボール!』
藤井:「ボール」って言えてるじゃん!何でデッドが付いた時だけ言えるんだ!
大賀:『バッターはそのまま一塁がある八丈島へ島流しされます。』
藤井:一塁が遠すぎるわ!しかもバッターは球は当てられるわ、島流しされるわで踏んだり蹴ったりだな!
大賀:『さぁ気を取り直して…おーっとここで牽制球!ボールがそれました!ランナーは二塁がある北極へ向かいます!』
藤井:二塁はもはや国内ですらねぇのかよ!
大賀:『さぁランナーはそのまま二塁を蹴って、向かう先は「上は洪水、下は大火事。ここどーこだ?」』
藤井:最後なぞなぞじゃねぇか!結局三塁はどこにあるんだよ!
大賀:『さぁ、ランナー三塁のチャンス。ホームランを打てるか!?』
藤井:やっと、まともらしくなってきたか…。
大賀:『ここでホームランを打てば天下統一です!』
藤井:ホームランで天下統一!?なんでそうなるんだよ!
大賀:『次のホームランで通算869号です!「王」を超えることが出来ます!』
藤井:それは、王は王でも貞治だ!もうやめやめ!お前のする事無茶苦茶じゃねぇか!
大賀:やっぱり、対戦相手の謙信が武士じゃなかったのが問題だったかな。
藤井:はぁ何言ってるんだ!?謙信は武士だろ!?
大賀:だって「謙信」の字には『二つの"言"』が入ってるだろ。だから「武士に『二言』はない」ってね。
藤井:もういいよ!
大賀:その言葉…本気か?
藤井:本気だよ!もういいよ!
大賀:はい、俺たちもちろん!
藤井:オフ・コース!
二人:どうもありがとうございました。